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低侵襲で安全に手術できる医療用ロボットの開発

大学院工学系研究科 産業機械工学専攻
教授 光石衛

●脳や腹部、関節の手術を支援するロボットを研究中
 現在最も力を入れて研究しているのは、医療用ロボットの開発です。医療用ロボットには、低侵襲、無菌状態で手術できる、感染のリスクの低減、安定性が高い、遠隔手術が可能といったメリットがあります。すでに低侵襲腹腔鏡下手術、深部脳神経外科手術、人工膝関節置換手術の支援ロボットのほか、大腿骨骨折の治療で脚の位置を正確に動かすためのロボットや複雑な形をした手の舟状骨の骨折を整復するためのロボットが組み上がり、精度を高めています。
 低侵襲腹腔鏡下手術支援ロボットは2本の鉗子用と1本の腹腔鏡用の3本のアームがあり、執刀医は腹腔鏡の映像を見ながら操作するもので、現在、2号機を製作したところです。
 深部脳神経外科手術支援ロボットは、患部をハイビジョンカメラで撮影し、それを執刀医が立体視ビューアで確認しながらマスタ・マニピュレータを動かすと、患部にある鉗子のついたスレーブ・マニピュレータが動きます。現在の2号機では、直径1mmの血管に0.1mmの針を通したり、通常の手術では困難な8cmの深さにある2×2 cmの脳腫瘍を摘出したりできるようになっていますが、鉗子の強度を上げられるよう、設計を変えているところです。
 これらのロボットはすべて学生の手作り。ほかに遠隔操作のための画像伝送のシステム、光計測、高速で高精度の加工システムなども研究しています。
 2年後までには医療用ロボットを実用化したいと考えていますが、医療現場で使われるには厚生労働省の承認が必要です。現在、厚生労働省と経済産業省がナビゲーション手術(手術ロボット)の審査ガイドラインの準備が進んでおり、これが定まると一歩前進できそうです。
 米国やドイツの大学など海外の研究者から共同研究をしようという話も来ています。医療用ロボットは世界がターゲットになるため、ロボットの仕様や材料などの標準化、インターフェイスの規格化も今後の課題です。

●友人との会話から医療用ロボットをテーマに選ぶ
 もともと半導体や素子を学ぼうと理学部に入ったのですが、実践的な勉強がないまま卒業を迎え、工学部に入り直しました。小さいころから設計や組み立てに興味があり、工学が向いていたようです。
 最初は工作機械を研究していましたが、1992年に中学の同級生に久しぶりに会ったことでテーマが変わりました。彼は当時、岡山大学医学部附属病院の整形外科医で、「指を切断した人の手術では神経をつなぐよりも血管をつなぐほうが難しい」と話したのです。このとき、医療分野には細かく正確なハンドリングを得意とするロボットのニーズがあると考えたのです。そして、彼とともに研究会を立ち上げました。
 全くの異分野で、当時は医工連携も今ほど進んでいなかったため、材料や設計に苦労しましたが、97年に東大と岡山大の間で直径1mmの微小血管をつなぐ遠隔操作に成功し、このころから医学系の学会でも発表をするようになりました。
 自分の経験から、テーマを決めたり、研究を進めたりするには、違う分野の研究者を含め、いろいろな人たちと話すことが大事だと考えています。隣の研究室にいらっしゃった"失敗学"で有名な畑村洋太郎教授(現・東大名誉教授、工学院大学特別専任教授)の研究会に参加して、異分野の人との意見交換や見学会からさまざまなことを学びました。そのときには雑学のような知識でも、後でヒントになることも多いのです。
 研究などを次にどうしていくかというアイデアは決まって入浴中、電車内で立っているとき、朝起きる直前に浮かびます。不謹慎ながら、人と話している最中に違うことを考えていて、思いつくこともあります。
 若い学生さんたちには、「悩むよりも手を動かせ」と言いたいですね。工学の研究者として、何かを作りながら、試行錯誤を重ねることは、何よりもの勉強になると思います。

低侵襲腹腔鏡下手術支援ロボット

低侵襲腹腔鏡下手術支援ロボット
図
低侵襲腹腔鏡下手術支援ロボットのマスタ・マニピュレータ。
腹腔鏡からの映像を見ながら、アームを操作して、鉗子と腹腔鏡を動かす。
通常の手による手術では鉗子を静止させることができないが、ロボットならば可能。
この装置でブタの胆嚢摘出手術を遠隔操作で4回成功させている。

光石衛 教授 <略歴>
1956年岡山県生まれ。79年東京大学理学部物理学科を卒業後、工学部に学士入学。86年同大学院博士課程修了、工学博士取得。東京大学工学部講師、助教授を経て、1999年より産業機械工学専攻教授。コンピュータ統合手術支援システム(遠隔手術システム、遠隔診断システム)、知能化生産システム(センサ情報融合型システム) 、ITを用いた生産システム、実感伝送型遠隔教育システムを研究。

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