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生産技術研究所 マイクロメカトロニクス国際研究センター 教授 藤井輝夫 ●深海で微生物のＤＮＡ調べる、カードサイズの生物センサーを開発 半導体の製造技術を利用したマイクロ流体デバイスを開発し、環境、バイオ分野に応用する研究を進めています。デバイスは、カードサイズのチップ上に微小な空間を形成し、その中で化学反応、生物学的反応を分析するものです。こうしたデバイスは将来、カスタマイズ化していきますが、まずはその基盤技術を整え、その上で実用化に向けた応用研究を幅広く進めているところです。 応用では、まず深海調査での現場計測システムがあります。例えば、深海に生息する微生物の存在を確認するチップは、数cm四方の基盤の上に幅0.1�佗�の溝が全長４m刻まれています。その溝に吸い込んだ深海の海水を流し込み、化学処理して、微生物のDNAを取り出します。ヒーターと組み合わせてDNA増幅（PCR）を行い、微生物の存在などを現場で調べることができます。これまでは潜水艇などで海水を採取して、船上で調べることが多く、深海での生物センサーは皆無でした。たとえばメタン酸化酵素の遺伝子を持つ菌体を確認できれば、燃える氷と注目されるメタンハイドレートの探索もできるかもしれません。 細胞・組織の培養にも有効です。通常、細胞はシャーレなどの皿で培養しますが、チップを使って生体内の組織と同じような環境をつくり、細胞を培養しようというものです。再生を目指す臓器・組織の大型化、肝臓などが弱った人に対する外付けの人工臓器（バイオリアクター）、薬効・毒性を調べる細胞の培養にも適しています。 我々は、このマイクロチップを使って、マウスの体外受精卵を効率的に成長させることに成功しました。多層構造のチップに子宮内膜を予め培養し、そこに受精卵を置いて子宮内と同様の環境にしたのです。受精卵の健康状態も向上し、72時間ほどで成長しました。不妊治療を手がけるクリニックなどと協力し、人への応用も視野に入れています。安全性を確かめることができれば、不妊に悩む人々の負担を軽減できると考えています。また、この方法は食肉牛の効率的な繁殖にも生かせる技術です。 小腸など腸管から物質がどう吸収されていくかの測定も可能になります。口から入った毒物、薬などは直接、臓器に作用するわけではなく、腸で吸収されていきます。2層構造のチップの上側に腸管の細胞を置き、下側を体内と見立て、上側の腸管に化学物質を流して、どのような作用をするか調べるわけです。 こうしたデバイスの開発は、1990年代に欧州で始まりました。競争は激しいのですが、日本の得意分野です。深海、地球上だけでなく宇宙に持って行って、地球外生物の探索に使うなど、夢が膨らむテーマといえます。 |
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●末広がりの実用化につなげられる研究をテーマに アポロ11号の月面着陸をテレビで見て、科学や技術には人を感動させるものがあると思いました。物理、化学が好きで、海の中を研究したいと船舶工学科に進みました。海中を潜水する自律型の探査ロボット開発に携わってきましたが、マイクロテクノロジーの技術を駆使し、新しい分野に挑戦しようと、小さなスケールながらその効果が大きい、化学、バイオの分野の道に入りました。 バイオ医療が一つの柱であるCOEでは、ティッシュエンジニアリング（細胞工学）、タンパク質、DNAの分析など、医療に応用できるデバイス装置の開発を担っています。やりたいことがたくさんありますが、いったん始めたら末広がりの実用化につなげられる研究をテーマにしたいと思っています。学生にも研究のストーリーを大切にし、実際に使えるものであるかを提示してほしい。その先の商品開発は、大学ではなく、企業の役割だと考えています。一番自由な時間で、納得のいく研究をしないともったいない。海外に行くことを含めてチャンスはいっぱいあるはずです。 |
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＜略歴＞ 1993年東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻博士課程修了、工学博士取得。同年東京大学生産技術研究所客員助教授、95年理化学研究所勤務を経て、99年に東京大学生産技術研究所海中工学研究センター助教授。2006年東京大学生産技術研究所マイクロメカトロニクス国際研究センター助教授、2007年同教授。 |
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