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熱流体工学を通じて乱流制御や幹細胞分離システムを開発

大学院工学系研究科 機械工学専攻
教授 笠木伸英

●シミュレーションと実験の両輪で未来システムを開発
 学生時代の恩師に気体や液体の流動や伝熱の基本的なプロセスをとらえ、設計に活かすというテーマを与えられ、以来、熱流体工学の分野で研究してきました。
 とくに力を入れてきたのが乱流の制御の研究です。乱流を能動的に制御することを目指して、壁面に沿う乱流をコンピューター上に再現し、可視化するシミュレーション技術を開発しました。さらにマイクロ壁面せん断応力センサと壁面変形型電磁アクチュエーターをマトリックス状に並べたデバイスを開発し、コントローラと組み合わせた制御システムも試作しました。これによって、実験室で乱流の摩擦抵抗を減らす方法を実証することができました。
 当COEプログラムのプロジェクトのひとつとして、ガスタービンと燃料電池のハイブリッドによって、熱と電気を同時に取り出すエネルギーシステムの解析あるいは設計技術も研究しています。もう少しで現在の火力プラントと遜色のないところまでたどりつけそうです。
 流体の理論を応用して、血液から幹細胞のみをより分けるマイクロ・セルソーティング技術も開発中です。血液中に1〜10億個に1個しかない幹細胞を捉えられれば、再生医療の基盤技術になります。すでに大規模な器械はあるのですが、高価で誰もが恩恵を得ることができません。そこでMEMS(micro electro mechanical system)技術を使い、チップ上で効率よく細胞をより分けるシステムを目指しています。
図
乱流を手なずけ、低減する制御システムをハードウェアとソフトウェアの両面で開発中。
写真は、研究室で開発したマイクロ壁面せん断応力センサーと壁面変形型電磁アクチュエーターを
配置した制御デバイスで、制御コントローラと組み合わせた制御システムを構築した。

●分野を超えての議論が役に立つ
 子どものころから工作が好きで、当時時々父が持ち帰ったカステラの桐箱で模型を作りたくて、家族がカステラを食べ終わるのを待っていたこともありました。
 工学部に進学したのは世の中に役立つことをしたいと考えたから。修士課程で伝熱の研究をしていましたが、自分の中で決着がつかず、博士課程に進学し、その後、専任講師として大学に残ることになりました。
 スタンフォード大学に客員研究員として行ったときには、研究設備の差もさることながら、物理、化学、航空学の専門家、NASAの研究者、近くのシリコンバレーのベンチャー企業の人たちが研究室に気軽に出入りしていたのに驚きました。ここで分野を超えて議論することの大切さを学びました。私自身、今でも物理学や化学の研究者とよく話します。当COEでは力学という学問・知識をベースに、別の専門を持つ人たちとモノづくり・コトづくりをしてほしいと願っています。
 若い研究者たちには、「若いうちは迷ったら難しい道を行きなさい」といいたいですね。どっちが得、どっちが楽ではなく、より難しい選択をし、選んだら後ろを見ないでチャレンジしてほしい。それが若い人の特権です。
研究のヒントが浮かぶのは、朝の通勤で本郷三丁目駅から研究室まで歩くときが多いですね。歩くリズムがアイディアを生み出すようです。朝で頭がすっきりしているのもいいのでしょう。
 研究が行き詰まったときには、よく学生たちとビールを飲みながらブレインストーミングをしました。ひとりだけ飲まない書記係を決め、ほかのメンバーは実現できないようなことでも何でもいいから思いつきを話します。次の研究会でひとつずつを検討すると、意外とできるものがあるのです。実際、こんなことから画像処理を使って流体速度を測る方法が開発できました。
 土曜日に研究室にいて仕事が進まないときには、根津にある父の墓参りをしてから、上野の美術館に行きます。絵を見てから画家に関する本を読むと、絵に画家の思いや考えが出ているのがわかって、おもしろいですね。時間ができれば鈴本演芸場にもまた行きたい。落語家の話しの“間”は講義での話し方に役立ちますから。東大を辞めるまでに、自分で本当に満足のいく講義をしてみたいと思っています。

笠木伸英 教授 <略歴>
1976年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。77年工学部助教授に就任。80〜81年スタンフォード大学客員研究員、90年に工学部教授となる。2002〜04年東京大学評議員を務め、2005年からは日本学術会議の会員となる。日本流体力学会会長,日本伝熱学会副会長,日本数値流体力学会会長を歴任、2006年より日本機械学会会長を務める。王立スウェーデン科学アカデミー会員。東京大学21世紀COE機械システム・イノベーション拠点リーダー。

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